マンション排水設備トラブルの原因は?
管材や継手の材質の問題
まずは「管材」の問題です。年代とともに耐久性や利便性など大きく改善されている「管材」ですが、大雑把に分ければ1985年以前は、一般的に「白ガス管」と呼ばれる亜鉛メッキの鋼管が利用されていました。当然、老朽化による「錆」の問題が大きく、トラブルの大きな原因となります。
その後、管内部を「(塩化)ビニール」でコーティングし外部も1次サビ止めを施した管(硬質塩化ビニルライニング鋼管)が採用され、耐食性だけではなく30%以上軽量化されて施工性もアップしました。
また、老朽化の重要なポイントとして「管材」だけではなく、管同士の「継ぎ目」の部材も「老朽化」のポイントの一つです。従来の白ガス管は「ねじ込み」や「溶接」で繋げていましたが、接続部の錆による事故の原因となっていました。
現在主流の「硬質ポリ塩化ビニル管」は、継手は「差し込み溶接工法」となり、工事もやりやすく錆の心配もなくなっています。
生活様式の変化による排水設備への影響
排水管の材質とともに見逃されがちな問題点として「生活様式の変化」があげられます。これが排水設備の劣化を加速させたりトラブルにつながっていることは、あまり知られていません。
たとえば、
・食生活の変化で台所排水の油脂が増加
・洗濯機やトイレの節水機能の進歩
・ディスポーザ排水処理システム
このような排水設備をめぐる環境も変化していますので、排水設備改修の際は対応を考慮した改修を行うことが重要です。
排水設備に関するマンション特有の技術的な要因がある?
「外科の手術」か「内科の診察」か?
「錆」により穴が開くなど設備そのものの老朽化による事故は、漏水場所の特定と配管の更新を行う工事となり比較的分かりやすいケースと言えます。いわゆる外科的な対処療法で対応が可能です。
しかし問題は、建物内での原因や場所が特定できない「詰まり」「異臭」「ゴボゴボ音」などの排水トラブルです。
この問題を理解するためには設備に関する深い知識や知見が必要となります。体の不調を訴え内科で診察するようなイメージです。
マンション排水設備の特徴を理解する
素人でもこの排水設備の「不調」の原因を理解するひとつのキーワードがあります。それは「排水管内の空気圧変動」です。
全てのマンションに共通している原理原則は、マンション内の排水設備は、最上階から最下階までつながって排水をしているということです。
ここまでは、なんとなくイメージすることは容易ですが、その排水管のなかに水が流れると同時に「空気の流れが起きている」という意外と知られていない「技術的な課題」があるのです。
簡単に言うと「管に水を流すためには空気が必要」という言われてみると当然のことで、ストローの先を指で塞ぐと水が落ちない現象と同じ原理です。
「排水管内の空気圧」問題ってそんなに重要なの?
トイレや洗面所などの排水口には必ず「トラップ」が設置されています。これは、排水管内の悪臭や害虫を室内に侵入させないための重要な設備(仕掛け)ですが、管内の空気圧に大きな変動が生じると、トラブルを起こします。
具体的には、マンション中層階で空気圧が足りなくなると(負圧)トラップ内の水が吸い込まれ「ゴボゴボ異音」が発生、低層階では空気圧の超過により「トラップ内から水(封水)が跳ね出し」異臭や排水の逆流の原因となります。
このようなトラブルを解決するためには、マンション内の配管の「錆」による口径の縮小や、通気管の問題、マンション全体の排水と空気の流れを検証しながら、排水設備のどこをどのように工事するべきかの判断をしなくてはならなくなるのです。人間で言うところの「血管」の手術に近い工事といえます。
最終的には、経験豊富な「名医」に工事をお願いしなくてはなりませんが、管理組合として排水トラブルにはこのような「背景」がある事を理解することは重要なことです。